痛風について(道歯会通信2002年2月号に掲載)

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痛風とは
 我々が,日々食べている食物には細胞があり,細胞には核があり,核の中には核酸という物質が含まれている.この核酸の主要成分はプリン体というもので,我々が食事をすると,このプリン体が体内に肝臓を経て取り込まれ,代謝され,からだの各部所で使用され,最後に「カス」として生じてくるのが尿酸である.
 この尿酸が血中,結果的には体内の各組織に異常な濃度で蓄積されると,その結果,激烈な痛み(好発部位は足部)をもたらすことになる(下図).これが痛風である.

この病気の歴史的背景
 痛風は古代ローマ・エジプトでは珍しい疾患ではなく,王族,財産家,学者など頭を使う人の病気であると信じられ,経験的に美食や大酒に関係していることが知られていた.ちなみに,下表のように,著名な人物で痛風に悩まされていた人は多い.
 一方,東洋では,2世紀ころ編纂されたとされている中国最古の医学書「金匱要略(きんきようりゃく)」に痛風の記載をみるが,歴史上の人物では元のフビライが罹患していたらしいとの記録があるのみである.我が国でも痛風という名前は語り継がれても,実際には稀な疾患とされ,明治31年における東京大学の近藤次繁博士の報告が確実な症例として記録されているのが最初である.歴史的観点から,東洋の食事は西洋に比べて健康的であったと言えるかもしれない.しかし近年,我が国でも食生活の欧風化が急激に進み,それに伴い痛風患者も激増し,現在ではごくありふれた疾患の一つとなった.現在では我が国で痛風にかかっている人は50-70万人ほどではないかと言われている.

痛風の原因
 痛風は,プリン体の終末産物である尿酸が体内に異常に蓄積するという,いわゆる尿酸代謝異常がその病態であるが,そのタイプは大きく3つに分けられる.すなわち,@体の中で尿酸が大量に作られる過剰産生型(代謝性とも言う) ,A尿中への尿酸の排泄が少ない排泄低下型(腎性とも言う),B上記ふたつの混合型,である.つまり,産生される尿酸が多いか,排泄される尿酸が少ないか,いずれにしても,尿酸の血中濃度が増して高尿酸血症が成立するわけである.
 この高尿酸血症は,さらに原因の明らかなもの(続発性)と,原因が明らかでないもの(原発性)のふたつに大別される(図2).

図2:痛風の原因疾患

診断
 痛風の診断はさほど難しいものではない.多くの患者さんは足部,特に,母趾の付け根の痛みを訴えて,外来を訪れる.時に患部が発赤,腫脹しているものも多い.酒や宴会が好きな人に頻発する傾向があり,宴会の後,家で寝ていると突然足が痛くなり眠られなかった,と言って受診する患者さんも多い.外傷歴もないし,レントゲン写真でも骨折等の異常所見はない.また,痛風の男女比は10:1で男性に多い.このような患者さんを診たら,痛風を疑い血液検査を行い尿酸値が高ければ痛風と診断できるのである(一般には7.0mg/O).ただし,図2のように,高尿酸血症の原因は多々あるので,それらを念頭において診察することが必要である.

治療
 続発性の痛風は原因疾患の治療が必要である.ここではもっとも頻度の高い原発性の痛風の治療について述べる.
 治療法は痛みを主訴とする急性期と,症状が現れていない間歇期で異なる.
(1)急性期
 局所安静,冷湿布,消炎鎮痛剤などによる痛みを除くための対症療法を行う.当然であるが血液検査の結果が出て痛風と確定診断できるまで,痛風治療薬は使用しないし,また,いわゆる痛風治療薬には急性期の鎮痛効果は期待できない.
(2)間歇期
 急性期の炎症が治まれば,定期的に血液検査をして高尿酸血症を確認した上で,痛風治療薬を用いた治療を行う.痛風治療薬には尿酸排泄促進薬(例:ユリノーム)と尿酸合成阻害薬(例:ザイロリック)がある.また,尿中の尿酸は酸性尿では容易に結晶化し,腎臓を傷つけたり,結石形成の原因となったりするが,アルカリ性尿では尿酸の溶解度が高くなるため,痛風治療薬の他に酸性尿改善薬(例:ウラリット)を併用することもある.
(3)食事療法について
 痛風に関しては,特別な食事療法はない.ただし,心にブレーキをかけ暴飲暴食を慎むべきであろう.

患者さんへの説明
 患者さんの多くは突然の痛みのために,不安げに外来を訪れるが,疼痛は大方1 - 2週間ほどで消失する.「痛風は贅沢病の一種・・・」などと説明し始めると,「自分は贅沢などしていない」と怪訝そうな顔をする人も多い.しかし,昭和30年代の平均的サラリーマンの贅沢とは月に1, 2度冷えたビールを飲むことであったという.現在はビールの消費量は爆発的に伸び(下図),冷えたビールを飲むことなど贅沢なことではなくなった.今の我々の暮らしのレベルは昭和20年代,30年代から比べると王侯貴族のレベルであるかもしれない.


 

 痛風は激烈な足の症状に目が奪われがちだが,尿酸結晶が腎臓にも少しずつ蓄積されていくということも忘れてはいけない.過度に蓄積されるといわゆる痛風腎となり,腎機能不全に陥り,透析を余儀なくされることもある.
 一度痛風にかかると,薬を服用していれば尿酸値は低めに抑えることができるが,薬をやめるとすぐに尿酸値が上がってきて,なかなか完治に至ることはない.一般的に患者さんは,月に1回定期的に通院し.薬を処方され血液検査を受ける.しかし,このようなことが長期になると,漫然と薬だけ処方され,医師の診察を受けず服用し続けるケースも多い.これは大変危険なことである.平成12年2月に,ユリノームで劇症肝炎が起こり死亡するという6例のケースが報告された.元々,ユリノームは他の薬剤と比べて特に強い副作用を有する薬ではない注).しかし,薬というものはすべて副作用を有していると考えた方がよい.漫然と薬を長期投与するということは,極めて危険なことであると認識しなくてはならない.少なくとも月に一度は診察をして患者さんの体の変調等をチェックしなくてはならない.

おわりに
 痛風は近年の医学の進歩により優れた薬が開発され治療も容易となった.しかし,治療期間はしばしば全生涯に及ぶので,息の長い取り組みが必要となることを心すべきである.
 

注)ユリノームは尿酸排泄薬で推定使用患者数は30万人とされている.服用中に劇症肝炎が生じた例が8例報告された(内6例が死亡).このことはメーカーより医療機関,薬局にすみやかに報告された.このようなことがあるとユリノームだけが「悪者」にされてしまいがちだがそれでは問題の解決につながらない.薬というものにはすべて副作用があると言うこと,そして,その殆どのものは定期的な診察を受けさえすれば容易に回避できるものであるということを強調しておきたい.現在でもユリノームは広く使用されている.


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